労働衛生コンサルタントの過去問や、労働安全衛生・環境関係の法令改正情報を綴っています。
事業運営のための衛生工学知識を深め、また、労働衛生コンサルタントを目指す方の参考になるよう、衛生工学の知識と新しい法令の告知情報を中心に記載していきます。
環境計量士の資格から、順番に、労働衛生コンサルタントに繋がったので、環境関連の話題も載せています。
剥離剤を用いた塗料の剥離作業における労災防止について③ [法令・通達情報※労働衛生]
標記の通達が令和2年8月17付で発信されています。
(公社)福井県労働基準協会 | お知らせ一覧 |
建築物の塗膜中のpcbや鉛が解体作業中に飛散することが問題になっていますが、今度は、飛散防止のための剥離剤に含まれる、溶剤(ベンジルアルコールとか、ジクロロエタンとか)が作業者の健康被害を起こしています。
三回目は、事故の事例をいくつか挙げながら、リスクと関連する法規制についてを整理してみたいと思います。
①剥離粉じんによる中毒の事例
日時 | 事例 | |
① |
H26
8月
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首都高6号線の橋梁塗装塗り替え工事で作業員3人が「鉛中毒」を発症する事故が発生した。 作業員は既設塗膜のケレン作業中に鉛を含んだ粉じんを吸い込んだとみられる。症状としては、腹痛と足のしびれなどを訴えたという。他、中毒の基準値近くの作業員が10数人いた。 |
②剥離剤の火災の事例
日時 | 事故内容 | |
① |
H26
3月
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首都高3号渋谷線高架下の塗装塗り替え工事現場で火災が発生した。 出火原因は、既設塗膜除去作業中に照明器具の電球部分にシンナーが付着して出火し、足場シートに着火して延焼したことによる。 |
② |
H27
2月
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首都高7号小松川線高架下の橋脚の塗装工事現場から出火して作業員2人が死亡する火災事故が発生している。既設塗膜を除去するため、引火性の高いシンナーを使用する際に換気するなどの安全対策を怠ったことが出火原因 |
首都高火災現場写真
③剥離剤の中毒の事例
対象物 | 事例 | |
① |
ジクロロ
メタン
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屋内での床のタイルカーペットの張替工事の際、ジクロロメタン含有の剥離剤によりカーペット撤去後に残った古い接着剤の除去作業を行っていたところ、中毒となり、意識を失った。災害当時、換気扇を付けておらず、また、防毒マスクを着用していたが破過していた可能性が高い。 |
② |
ベンジル
アルコール
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橋梁工事において、ベンジルアルコール含有の剥離剤により桁の塗料の剥離作業を行っていたところ、複数名が意識不明や足下がおぼつかなくなった。災害当時、全体換気はなされており、また、防護服及び電動ファン付き呼吸用保護具を着用していた。 |
③ | 成分不明 | 鉄筋コンクリート造の校舎解体工事において、石綿含有の外壁材に剥離剤(成分不明)を吹き付けて除去作業中、5名が体調不良となり、腕や背中にも化学やけどを負った。呼吸用保護具を着用していた。 |
④ |
ベンジル
アルコール
|
橋梁工事において、ベンジルアルコール含有の剥離剤により桁の塗膜の除去作業を行っていたところ、複数名が吐き気や視覚障害などを発症した。被災当時、防護服や防護眼鏡は着用していたが、呼吸用保護具の着用状況は不明。 |
⑤ | 成分不明 | 作業足場において剥離剤(成分不明)を用いて塗膜除去作業中、剥離剤の揮発蒸気を吸引して一時的に意識障害に陥り、足場から転落した。また、転落時に剥離剤の容器を倒し、中に入っていた剥離剤を浴びて化学やけどを負った。 |
⑥ |
ベンジル
アルコール
|
橋梁工事において、剥離剤の乾燥を防止するためビニルシートで養生を行い、ベンジルアルコール含有の剥離剤により桁の塗料の剥離作業を行っていたところ、意識を失った。災害当時、換気は行っており、また、防護服及び防毒マスクを着用していたが、防毒マスクの吸収缶の破過時間の管理を行っていなかった。 |
⑦ |
ベンジル
アルコール
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橋梁塗装工事において、防炎シートと厚手のビニルシートで養生された環境下でベンジルアルコール含有の塗膜剥離剤の吹き付け作業を行っていたところ、意識を失った。被災当時、防護服及び防毒マスクを着用していた。 |
③の事例を見ると、成分不明の記載も目立ちますね。
剥離剤メーカーのホームページでは、SDSが入手できなかったり、SDSが有っても化合物名が曖昧だったり(エチレングリコール系)、酸やアルカリを添加して、剥離性能を上げている成分が、機密情報だったりしますので、正確なリスク評価の障害になっているように思います。
また、ベンジルアルコールは、昔、学生実験で実験着に臭いが染みつくほど使っていましたが、低濃度でも長時間吸っていると気分が悪くなるように記憶しています。
ベンジルアルコールのSDSを調べると、経皮吸収もあり中枢神経系・腎臓への障害があるということですので、ばく露低減策が必要ですね。
また、引火点93℃、沸点205℃で、水と混ぜると非危険物にはなるんでしょうが、剥離物は可燃物だったんだろうなと思われますね。
物質名と法規制を並べるとこうなりますが、「水系だから安全!」「環境にやさしい!」というのは、溶剤系と比べた場合であって、事故の要因にならないわけではないことに留意する必要がありますね。
次回は、国土交通省の『土木鋼構造用塗膜剥離剤技術』を参照して、内容を確認したいと思います。
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2020-08-30 04:00
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