事業運営のための衛生工学知識を深め、また、労働衛生コンサルタントを目指す方の参考になるよう、衛生工学の知識と新しい法令の告知情報を中心に記載していきます。
労働衛生コンサルタント試験:過去問「健康管理」令和4年度(3) [労働衛生コンサルタント過去問:健康管理]
私の回答案を紹介しますが、誤答・誤解については、コメント欄でご指摘いただけると助かります。
令和3年までの受験区分保健衛生の記述式科目「健康管理」の過去問については、こちらのリンクをご参照ください。→→健康管理(記述式)過去問R03分まで
令和4年度の「健康管理」問題は各問とも、専門分野の幅広い正確な知識を問う問題になっています。
問1「放射線の有害性について」
問2「インジウムの有害性と対策について」
問3「メンタルヘルスについて」
問4「健康診断全般について」
今回から、問2「インジウムの有害性と対策について」に取りかかります。
(1)呼吸器系の構造について説明せよ。図示してもよい。
(2)吸入した粒子径と呼吸器内沈着部位との関係について説明せよ
(3)呼吸器系の機能である「ガス交換」について説明せよ。
(4)インジウム化合物の用途を二つ挙げよ。
(5)インジウム肺について、以下の問に答えよ。
① インジウム肺の主たる呼吸器疾患名を記せ。
② ①の疾患では、肺のどの部位にどのような変化が生じているかについて記せ。
③ インジウム肺と同様な①の疾患を生じる金属元素を挙げよ。
④ インジウム肺の発症後、長期にわたって発症を確認する必要のある呼吸器疾患を挙げよ。
(6)インジウム肺が発生した同じ工場に勤務する作業者に対して、発症者と同じ疾患が発生していないかを調査することになった。健康調査項目を「性」、「年齢」以外に五つ挙げよ。
(7)インジウム化合物を製造し、又は取り扱う屋内作業場での呼吸用保護具の使用について留意すべきことを述べよ。
(8)インジウム化合物の製造・取扱い作業に関し、インジウムばく露を低減するために必要な対策を「呼吸用保護具の備付け、使用」以外に五つ挙げよ。
(9)インジウム化合物を譲渡・提供する際に添付される安全データシート(SDS)から得られる職場の衛生管理上有用な情報を五つ挙げよ。
こちらは、インジウムの健康影響について、医学的な知識も含めて問われるだけで無く、対策に関しては、一般的な有害物質管理・化学物質管理の原則も含めて専門的知識を問う問題です。
インジウムに特化した専門的な知識を求めているのは、(4)、(5)、(6)の3問。他の小問は、一般的な有害粉じん対策で回答できるので、落ち着いて回答すれば、合格点の60%を目指すことが出来そうです。
問2
ある工場で、インジウム化合物の一種であるインジウム・スズ酸化物の加工工程における研磨作業に従事する作業者に呼吸器疾患(以下、「インジウム肺」という。)が発生したことが明らかになった。以下の設問に答えよ。
(1)呼吸器系の構造について説明せよ。図示してもよい。
・口や鼻から入った外気が、気道を通過して、気管支にはいり、肺胞に到達する。
(2)吸入した粒子径と呼吸器内沈着部位との関係について説明せよ。
・国際基準であるISO 7708で粉じんは、吸入した場合の呼吸器への到達の程度に応じて「吸引性粉じん(インハラブル)」「咽頭通過性粉じん(ソラシック)」「吸入性粉じん(レスピラブル)」の3種類
・空気中に飛散しており、口や鼻から入る粒子は、吸引性粉じんであるが、概ね平均空気動力学径が10um程度の粉じんは、咽頭を通過し、気管から気管支に到達する。更に小さい粉じん粒子は、気管支から肺胞に到達し沈着する(吸入性粉じん)
(3)呼吸器系の機能である「ガス交換」について説明せよ。
呼吸により、肺胞に到達した外気の酸素が、肺胞の壁を透過し血中の赤血球のヘモグロビンと結合し血中に取り込まれる。一方、血中に溶解したCO2などは、濃度差により肺胞内の空気中に拡散する。
このあたりまでは「インジウム」のことを知らなくても、まあ、保健師さんなら回答可能かと思われます。
令和4年までの「労働衛生工学」の過去問については、こちらの過去ブログをご参照ください。
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労働衛生コンサルタント試験:過去問「健康管理」令和4年度(2) [労働衛生コンサルタント過去問:健康管理]
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令和3年までの受験区分保健衛生の記述式科目「健康管理」の過去問については、こちらのリンクをご参照ください。→→健康管理(記述式)過去問R03分まで
令和4年度の「健康管理」は、各問とも、専門分野の幅広い正確な知識を問う問題になっています。
問1「放射線の有害性について」
問2「インジウムの有害性と対策について」
問3「メンタルヘルスについて」
問4「健康診断全般について」
問1 放射線の性質及び職場における放射線障害の予防に関し、以下の設問に答えよ。
・・・
(5) 放射線業務従事者の眼に生じるおそれがある健康障害に関する次の事項について説明せよ。
① 健康障害の具体的な内容
② 健康障害を予防するための等価線量の限度
③ 健康障害を予防するための措置
(6) 放射線防護におけるALARA の原則について簡潔に説明せよ。
(7) 医療現場における放射線防護について次に掲げる事項ごとに説明せよ。
① 照射条件の工夫
② 散乱線の遮蔽
③ 放射線業務従事者の行動に関する留意点
④ 個人用保護具
(5) 放射線業務従事者の眼に生じるおそれがある健康障害に関する次の事項について説明せよ。
① 健康障害の具体的な内容
② 健康障害を予防するための等価線量の限度
③ 健康障害を予防するための措置
①水晶体の被爆による白内障
②100mSv/5年 50mSv/1年
③・線源の遮蔽・隔離
・線量当量の測定と作業時間の管理・低減
・防護メガネ、フェイスシールドなどの着用
・白内障の健康診断
(こちらは、最近、電離則が改正されたので、サービス問題かも知れませんね)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_06824.html
(6) 放射線防護におけるALARA の原則について簡潔に説明せよ。
個人の被ばく線量や人数を、 経済的及び社会的要因を考慮に入れたうえ、 合理的に達成できるかぎり低く保つことである。 この原則をALARA (As Low As Reasonably Achievable) アララの原則という
(7) 医療現場における放射線防護について次に掲げる事項ごとに説明せよ。
① 照射条件の工夫
② 散乱線の遮蔽
③ 放射線業務従事者の行動に関する留意点
④ 個人用保護具
①照射条件の工夫
・照射条件の最適化
診療可能な最低限の画質となるよう、出力、パルスレートや撮影枚数、照射野を調整する、画像検出器と患者を可能な限り近づける
②散乱線の遮蔽
・医療現場での外部放射線防護の三原則
距離: 放射線源、散乱線源を意識し、可能な限り距離をとる。
時間: 放射線照射時間は、最小限にとどめる。
遮蔽: 散乱線源と作業者の間に放射線遮蔽板を配置する。
③放射線業務従事者の行動に関する留意点
(照射野に手や身体をを入れない)
照射野内外で100倍以上線量が異なる。皮膚障害、皮膚がんの可能性。
(散乱放射線の分布を教育する)
例えば、患者からの距離や、散乱放射線の少ない位置に立つなどを工夫する。
④個人用保護具
保護衣、ネックガードなど、照射場所や線源のエネルギーを考慮して選定する。
保護衣の遮蔽効果は90%以上有るが、完全では無いので、防護壁と併用や、照射時間の短縮など、他の防護策を補完する手段として認識する。
最後の問題は、特に、試験会場での限られた時間でどこまで記述すれば合格点なのか悩ましいですね。放射線障害の専門家でも無い限り、ポイントだけ記述するのは至難の業だと思います。逆に、60%で合格点だと割り切って、確実な知識を回答するのが良さそうです。
令和4年までの「労働衛生工学」の過去問については、こちらの過去ブログをご参照ください。
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労働衛生コンサルタント試験:過去問「健康管理」令和4年度(1) [労働衛生コンサルタント過去問:健康管理]
私の回答案を紹介しますが、誤答・誤解については、コメント欄でご指摘いただけると助かります。
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先ずは、各問題の概要です。
各問とも、専門分野の幅広い正確な知識を問う問題になっています。
問1「放射線の有害性について」
放射線の基本から、生化学的な影響、その対策まで、広範囲での正確な知識を問う問題ですが、専門性は高いですが教科書通りの回答が可能だと思います。医療現場でX線の取り扱いについても問われています。
問2「インジウムの有害性と対策について」
こちらは、インジウムの健康影響について、医学的な知識も含めて問われるだけで無く、対策に関しては、一般的な有害物質管理・化学物質管理の原則も含めて専門的知識を問う問題です。
問3「メンタルヘルスについて」
予防や職場環境の課題、症状とケア、復職と情報管理、といった形で、全般的に広範囲な知識を問う問題になっています。深い内容を問われてはいませんが、各項目について正確な知識が求められているようです。
問4「健康診断全般について」
一般健康診断の法的な位置づけや取り扱いに加え、後半では人間ドックの取り扱いやオプション検査項目の位置づけなど、実務的な内容が問題に入っており、広範囲な実務的な知識が問われているようです。
問1問2は、どちらも、世の中的には(福島の除染事業とか、半導体事業で必須のインジウムの有害性)重要な課題ですが、なかなか実業務でここまで専門的なことを求められた経験のある方は少ないでしょうから、難易度が高いように思います。
後半の問3問4の選択は、メンタルヘルスと健康診断という、一般事業所で触れることの多い課題ですので、事業所の保健師さんには、どちらを選んでも、そこまで、難易度は高くないように思います。
問1 放射線の性質及び職場における放射線障害の予防に関し、以下の設問に答えよ。
(1) 電離放射線は非電離放射線と何が異なるのか簡潔に説明せよ。
(2) 電離放射線の特徴に関する次に掲げる用語について両者の相違がわかるように簡潔に説明せよ。
① β線とγ線
② 実効線量と等価線量
(3) 電離放射線の内部被ばくに関する次の事項について簡潔に説明せよ。
① 内部被ばくが生じる機序
② 内部被ばく線量の測定法
(4) 電離放射線の健康影響に関する次の事項について簡潔に説明せよ。
① 確率的影響
② 確定的影響(組織反応)の急性障害
(5) 放射線業務従事者の眼に生じるおそれがある健康障害に関する次の事項について説明せよ。
① 健康障害の具体的な内容
② 健康障害を予防するための等価線量の限度
③ 健康障害を予防するための措置
(6) 放射線防護におけるALARA の原則について簡潔に説明せよ。
(7) 医療現場における放射線防護について次に掲げる事項ごとに説明せよ。
① 照射条件の工夫
② 散乱線の遮蔽
③ 放射線業務従事者の行動に関する留意点
④ 個人用保護具
問1 放射線の性質及び職場における放射線障害の予防に関し、以下の設問に答えよ。
(1) 電離放射線は非電離放射線と何が異なるのか簡潔に説明せよ。
電離放射線は、原子または分子から電子を取り除きイオン化(電離)させる能力を持つ放射線であり、非電離放射線はこの能力を持たない放射線である。
(2) 電離放射線の特徴に関する次に掲げる用語について両者の相違がわかるように簡潔に説明せよ。
① β線とγ線
https://www.fepc.or.jp/nuclear/houshasen/houshanou/shurui/index.html
β線は原子核から飛び出した電子線
γ線は、不安定な原子核から放出される電磁波
② 実効線量と等価線量
https://www.qst.go.jp/site/qms/39508.html#tab2
「等価線量」は、組織・臓器ごとの影響を表す単位として使われ、「実効線量」は、全身への影響を表す単位です。
組織・臓器における吸収線量に対し、放射線の種類ごとに影響の大きさを重み付けしたものを等価線量といいます。吸収線量に、放射線の種類による影響の強さの違いを補正するための係数(放射線加重係数といいます)を掛けて算出します。
さらに組織・臓器ごとの等価線量に、発がんの起こりやすさによって決められた係数(組織加重係数といいます)を掛け、すべての組織・臓器で足し合わせたものが実効線量です。
(3) 電離放射線の内部被ばくに関する次の事項について簡潔に説明せよ。
① 内部被ばくが生じる機序
https://www.env.go.jp/chemi/rhm/h29kisoshiryo/h29kiso-02-01-01.html
①放射性物質が、呼吸・飲食・傷口などから体内に入る。その後、放射性物質の一部は、排出されるが、特定の臓器に濃縮される場合もある。体内で放射性物質から発生した放射線により、障害が発生する。
② 内部被ばく線量の測定法
https://www.env.go.jp/chemi/rhm/h28kisoshiryo/h28kiso-02-04-10.html
・体の中から出てくるγ(ガンマ)線を直接測る体外計測法、あるいは、尿や便の中にある放射性物質の量を測るバイオアッセイを用いる方法を用いて、内部被ばく線量の計算に必要となる摂取量を推定します。
・推定した摂取量(単位はベクレル)に、放射性核種の種類や年齢ごとに細かく定められている預託実効線量係数を乗じることで、内部被ばく線量を求めることができる。
・体内に摂取した経路、年齢、放射性物質ごとに異なる放射性物質の蓄積・代謝挙動、を元に、数理モデル計算を行って求められた各臓器や組織ごとの吸収線量と、放射線の種類や臓器による感受性の違いを考慮して、預託実効線量係数が求められている。
(4) 電離放射線の健康影響に関する次の事項について簡潔に説明せよ。
① 確率的影響
② 確定的影響(組織反応)の急性障害
https://www.env.go.jp/chemi/rhm/h30kisoshiryo/h30qa-03-01.html
②確定的影響とは、大量の放射線を浴びることで細胞死が起こり、組織や臓器の機能喪失や形態異常が起こることです。
①確率的影響とは、細胞の突然変異により発生する影響です
https://www.env.go.jp/chemi/rhm/h30kisoshiryo/h30kiso-03-01-04.html
①確率的影響 :がん、白血病、その他遺伝子的な影響
②確定的影響 :脱毛、白内障、皮膚障害(火傷など)
出典:「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料 令和4年度版」を参考にしました。
小問(5)からは、次回以降に続きます。
令和4年までの「労働衛生工学」の過去問については、こちらの過去ブログをご参照ください。
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